NBN通信24号

名古屋点訳ネットワーク
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           2013年4月発行

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〜〜 加藤俊和先生講演会のご報告   (平成25年3月10日) 〜〜


〜〜 講演会を終えて   NBN代表 中西和子 〜〜



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 3月10日(日)、京都ライトハウス前所長の加藤俊和先生をお招きして、「大災害時の視覚障害者の過酷な生活と必要な支援」をテーマにお話ししていただきました。  参加者は53名で、午前10時から午後4時までという長丁場でしたが、みなさんメモをとりながら、熱心に聞いていらっしゃいました。  東日本大震災では、阪神淡路大震災に比べて、視覚障害者の全犠牲者に対する比率が2倍となりました。また、震災後 半年で4%以上の視覚障害者が亡くなっています。  こうした現状を踏まえて、災害時に視覚障害者がどんな状況になるか、どういう支援が必要かという加藤先生のお話は、実際に両大震災で視覚障害者を支援された経験に基づくだけあって、とても切実な内容で、時には胸がつまるようなエピソードもありました。  下記に今回の講演内容をご報告いたしますので、参加されなかった皆様もぜひお読みになって、災害時の障害者支援についてご一考ください。


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――加藤俊和先生講演会のご報告――


 「大災害時の視覚障害者の過酷な生活と必要な支援」

 〜東日本大震災であらわになった課題、           
              さまざまな視覚障害者への情報の伝え方〜

 日時 : 2013年3月10日(日)10時〜16時
 場所 ; 名古屋市総合社会福祉会館7階大会議室
 参加者 : 53名( 名古屋市社協より1名)



 初めに15枚ほどの写真を見ながら被害状況などの説明があり、その後具体的に先生が実際に見てきたことをお話下さいました。



1.大震災や大火災では、視覚障害者は動けない      

講演中の加藤先生

視覚障害の方は、割れたガラスの破片にさわって初めてガラスとわかるので、気がついた時は血だらけです。日常、ひとりで白杖を持って歩ける人も、震災時は地割れ、ガス漏れ、水たまりなどがあるので、単独歩行は無理です。

 また、防災グッズは役に立ちません。リュックを探しているうちに、けがをします。急いで逃げねばならない時は防災グッズなどどうでもよいのです。 本来、水・食糧などは、避難所に準備しておくべきものです。

 そして、絶対持って行かなければならないのは、持病の薬(発作を抑える薬、眼圧を抑える薬など)です。2〜3週間分は必要ですが、最低一粒でも持っていれば、薬が調達可能になります。





2.避難所での生活

 @ トイレの問題

  トイレ内部の事が一番困る問題でした。個室の中の状態や使用後の紙やポリ袋の始末などわからないことが多く、視覚障害者が個室の中で孤立してしまうという状況でした。
 また、避難所の中で比較的過ごしやすい壁際は、健常者が先に場所をとってしまうので視覚障害者の方たちは、真ん中のあたりにいなければなりませんでした。そうなると移動するにも通路がわからず、トイレへも行きにくい状態でした。しかも体育館などの避難所は床張りなので、夜、杖の音が響いてしまい、苦情が出たため避難所から追い出されるという事例がありました。



 A 情報不足の問題

  多くの「情報」が張り紙で知らされており、視覚障害者に伝わりませんでした。避難所で放送を入れると「うるさい!」と言われます。全体の1割の人が「うるさい」と言えば放送されなくなります。弁当の時間が早まったとしても、張り紙のみで知らせるので、視覚障害者は気づかずにいて、弁当がもらえないということもありました。
 厚生労働省はコミュニケーション支援として、聾唖者のためには「手話通訳者」を派遣し、視覚障害者のためには「点訳指導員」を派遣しようとしました。しかし、本当に必要なのは「ガイドヘルパー」です。それにもかかわらず「ガイドヘルパー」はコミュニケーション支援の中に含まれていないため派遣は不可能でした。
 避難所の閉鎖にともない自宅に戻った人も、近所の人がいなくなったので、ますます情報不足に。移動販売が何かを売りにきても、"来たこと"がわからない、わかってもそこまで行けないという状況でした。また、仮設住宅の優先入居が、情報不足でできなかったということもありました。





3.復 興 っ て 何?

 今でも本当に一握りの人だけしか復興していません。テレビなどの取材で、「復興して頑張っている人を紹介して欲しい」と言われます。テレビでは、明るいニュースを欲しているのです。でも、実態は違い、テレビで映ってないところは復興していないのです。





4.視覚障害者はどこに?     

後方からの加藤先生

 避難所への視覚障害者がいるかの問い合わせには「見つからない、調べる暇がない」という回答しかありませんでした。中途失明の方の中には「差別されるのではないか」「迷惑をかけたくない」との思いから、周りに知られたくないために、見えないことを隠す方が多くいらっしゃいました。
 また、仙台市では「要避難支援者登録」をした方の無事は100%確認できました。しかし登録した方は、障害者全体の約2%にすぎなかったのです。





5.情報の伝え方の問題

 では、視覚障害者へ情報を伝えるにはどうすればいいのでしょうか。それは、その方が必要な部分だけ、その方がわかるところだけを選んで伝えることです。
 特に、中途失明の方には「記憶可能な2,3行のみ」で伝えることが大切です。たとえば「あなたは、白い杖をただでもらえます。」「今3時だよ!としゃべる時計が、1400円でもらえるよ。」など簡単にその人に必要なことだけを知らせることが重要なのです。
 点訳・音訳をやっている人には、情報を伝える人になってほしいのです。災害時に情報ボランティアは大きい役割をもちます。点訳・音訳ボランティアは「情報の補い」をするのにふさわしい方々です。(読み書き支援)





6.被 災 の 教 訓

  ●「自分の薬」だけは、持ち出さないと命に関わる!他はなんとかなる。

  ●大声を出すことは重要だが、棒でたたいて音を出す工夫も。

  ●普段から避難所までの経路と避難所内の確認を!(迂回路も)

  ●避難訓練への参加を!

  ●障害者や要介護者・高齢者は無理にでも引っ張っていかないと助からない。

  ●「支援の必要な人がここにいる!」という情報を近隣で共有を!


  そして、日頃から会話したり、関心を持っておく。






7.これからの「情報支援」は「多様な利用者ニーズに応えること」

 コンピュータ技術の発展により、欧米では、ほぼ自動点訳、自動読み上げがパーフェクトになり、この分野でのボランティアは必要なくなっています。しかし、日本においては外国語の資料であっても日本語を含みレイアウトも複雑なので、点訳者は必要です。
 また、日本では漢字の読みが多様で、レイアウトも複雑、図表や写真の説明にも点訳者の力が必要でなくなることはないでしょう。
 パソコン点訳は修正が楽ですが、墨字の画面で見つかる誤りと点字にして見つかる誤りは違います。墨字だけの校正は危険です。
 マルチメディアDAISY(デイジー)は、出版社の許諾も得やすく、文字は認識できなくても音声読み上げなら理解できる障害のディスレクシアの方にも情報提供できます。





8.質 疑 応 答

 Q:CERN(欧州原子核研究機構)の表し方は?呼称は「セルン」だが。

 A:外大大CERN でよい。他の例で、laser(レイザー)は、略語だが、外laserまたは、外引符で囲む、でもよい。語源がわからないと、点字を書けないのか? 辞書を調べないと切れ続きを判断できないようでは、点訳ボランティアにも、視覚障害者にも負担が大きい。「迷った時に語源も調べる」程度ならいいが。


 Q:分かち書きで「てのひら」は続けて、「てのこう」は切る、という問題について。

 A:「てのひら」を切って、なぜいけないかと思う。続けると主張する人は「てのひら」が漢字1字で「掌」と書くからだからと言うが、「手の平」と書く人もいる。今は漢字が使われることは少ないので「ての ひら」と切るようになるかもしれない。


 Q:最近テキストデータを頼まれる。出版社がテキストデータを出したら、著作権にかかわるのか?また、ホームページにテキストデータがあることを載せるのはどうか。

 A:出版社がテキストデータを提供している場合でも、その本を購入した人が、その本人または家族で使うくらいならよいが、公の場所などで流してはいけない。ホームページに出すのもいけない。


 Q:震災に関して、視覚障害を持っている人が何かできる支援は無いか。

 A:心の支援ができるのは、視覚障害者同士が効果的。でも押し付けないように。聞くだけがよい。(傾聴)


 Q:中途失明の方からの質問:災害が起こった時に、助からなければいけないのか。 家も流されて、仕事も失い、すべてなくしても生き残るべきなのか。

 A:生き残るべきだと思う。生きていればいいこともある。無いかも知れないけど、人として、そう言わねばならないでしょう。生きましょう!






 ◇講演後、参加された皆様から感想をいただきましたので
                    一部紹介させていただきます◇


 ・近隣の方が許せば支援者の情報を共有することができればと思いました。
  明日は我が身として心にとめておきたいと思います。
  持病薬だけはいつも身近にと伝えていきたいと思います。

 ・障害を持っている人の苦労もわかりました。今まで体験談を聞く機会はありましたが、自分の関わっている視覚障害者ともまた話し合ってみようと思いました。

 ・今まで知らずにいたことがかなりあったことがわかりました。

 ・障害者の被災地での現状をよく知ることができました。昨年岩手の被災地を見てまわる旅行に参加し現地の方のお話を聞かせていただき、また広大な被災の跡を目のあたりにして言葉に表せない衝撃を受けました。決して忘れてはならない思いを抱いて帰りました。今日のお話、現地の方のお話など教訓にこれからの災害に備えたいと思いました。

 ・実践者としての先生の言葉は非常に重く、本当に必要なことに目を向ける指針となりました。本当に悲惨な状況の中にある時にこそ人肌のぬくもり、思い、心、信頼が道を作ってくれると信じたい。先生はそれを実践しておられると感じました。

 ・良いことも悪いことも全て受け止めて生きること、そして共に寄り添えるような点訳者でありたいと切に思いました。

 ・災害時の視覚障害者の支援について深く考えたことがなかったのですごく勉強になりました。災害時のことはこれからとても重要な課題です。 

 ・報道等でしか知らなかった現地の様子を伺えてよかったです。当時はよく話題になりましたが日々薄れていっている気がしました。何かできるのでは、と思い続けることが大切だと思います。

 ・東南海地震とか色々震災対応が話題になりますが、いざ起きた時、どのように役立てるかわかりません。日頃福祉のボランティア、特に視覚障害者のサポートをしていても、いざ組織的にも個人的にもどう動くかわかりません。今日の機会に関わるいろいろな組織で横断的に情報交換が出来ることを期待します。

 ・障害者の方達の状況(報道されない)がよくわかった・・・と思います。 自分としては人とのコミュニケーションも苦手です。お話を聞いても適当なお返事をすることは出来ないと思いますが、耳を傾けることは出来ると思います。

 ・マスコミに取り上げられない話が聞けて嬉しかったです。視覚障害者のおかれている状況が少しはわかったような気がします。

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講演会を終えて

NBN代表 中西和子

 最初の行事である、加藤先生の講演会を終え、ホッとしています。昨年加藤先生にご講演をお願いした時、先生からの伝えたいという熱い思いのこもったメールを頂き、大勢の方に聞いていただかなくては、と思いました。

 ご講演を聴くまで想像できていなかった、具体的な生活のお話。自分自身の明日の姿かもしれない中高年からの失明者の話…。普段の決まった範囲の点訳から離れ、広く考える良い機会だったと思います。

 今後も、NBNに関わる皆さんと有意義な時間をつくっていけますように、ご参加・ご協力をお願い致します。



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◆編集後記◆


 東日本大震災から2年が経ち、その話題がだんだん少なくなってきている気がします。講演後、参加者の多くから「私でも何かできることがあるように思った。」という感想が聞かれ、嬉しく思いました。私達点訳者は、視覚障害者に点訳の情報だけを提供するだけではなく、視覚障害者の生活に何が必要かを普段からもっと意識する必要があると感じました。

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